理学療法士の供給過剰を語るときに引用されるのが、「2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍になる」という厚生労働省の推計です。この数字は実在します。ただし公表は2019年で、供給側の前提はその後変わりました。数字を捨てるのではなく、前提ごと読み直します。
推計の出どころ
出典は厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 第3回理学療法士・作業療法士需給分科会」(平成31年4月5日)の資料1です。そこには次のように記されています。
供給推計は、現時点においては、需要数を上回っており、2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍となる結果
重要なのは、供給推計の基礎に置かれた数字です。2011〜2017年の入学定員の中央値(理学療法士13,629人)が使われています。つまり「定員の人数が毎年入学し、卒業して供給される」という前提で積み上げた推計です。
前提が変わっている
令和7年4月1日時点の養成状況では、理学療法士の入学定員は14,668名、定員充足率は87.8%です。定員に対して約12%が埋まっていません。定員×充足率で概算すると、実際の入学者はおよそ12,900人規模になります。
推計が前提とした13,629人と比べると、実入学者数ベースでは供給のペースが鈍っている計算です。作業療法士に至っては充足率66.5%で、差はさらに大きくなります。
厚生労働省は2026年5月に「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」を立ち上げ、学生充足率の低下による養成校の経営難や、地域における養成機能の縮小を課題として議論しています。7年前の推計が置いていた「供給は定員どおりに増え続ける」という前提は、現在の議論の前提ではなくなりつつあります。
なお2026年8月31日時点で、この需給推計の更新版は確認できていません。7年前の数字が更新されないまま引用され続けている、というのが現状です。
需給推計を理学療法士はどう読むか
「2040年に1.5倍」という数字は実在する公的推計ですが、供給側の前提が入学定員ベースであること、そして公表が2019年であることは、あわせて知っておく価値があります。数字が間違っているという話ではなく、推計が置いた前提が現実と離れ始めているということです。
そのうえで申し上げると、人数が増えること自体は悪ではありません。問題は、増えた集団の中でどう見分けられるかです。供給の伸びが鈍っても、この問いの形は変わりません。「増えているから価値が下がる」という理解は、どちらに転んでも自分の行動を変えないため、判断としては使いにくいものです。
使える形に置き換えるなら、「自分は何で見分けられているか」を一度言葉にしてみることをおすすめします。担当している疾患群なのか、施設形態をまたいだ経験なのか、教育や管理の役割なのか、多職種との調整なのか。これは求人票にも統計にも書かれておらず、自分で言語化するしかない部分です。市場全体の数字より、この一文のほうが判断に効きます。
出典
- 厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 第3回理学療法士・作業療法士需給分科会」資料1(平成31年4月5日) mhlw.go.jp(2026年8月31日確認)
- 厚生労働省「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」第1回資料3(令和7年4月1日時点の養成状況) mhlw.go.jp(2026年8月31日確認)
※実入学者数の概算は「入学定員14,668名×充足率87.8%」による当編集部の試算です。公表値ではありません。
この記事を書いた人
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向井タカトシ
理学療法士 / パーソナルジム経営者理学療法士としての臨床経験を経てパーソナルジムを経営。理学療法士のキャリア形成を当事者の目線で発信している。