独立を考えるときに最初に知りたいのは、いくら必要かという金額です。日本政策金融公庫の新規開業実態調査は、全業種を対象にしながらも、この問いに公的な手がかりを与えてくれる数少ない資料です。平均と中央値の差から読み取れることを整理します。
2025年度新規開業実態調査
調査は2025年8月に実施され、2025年12月5日に公表されました。対象は日本政策金融公庫 国民生活事業が融資した開業後1年以内の企業8,517社で、回収は2,165社(回収率25.4%)です。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 開業費用 | 平均 975万円/中央値 600万円 |
| 資金調達額(合計) | 平均 1,219万円 |
| うち金融機関等からの借入 | 827万円(67.9%) |
| うち自己資金 | 279万円(22.9%) |
| 採算状況 | 黒字基調 67.0%/赤字基調 33.0% |
| 開業時の平均年齢 | 43.9歳 |
| 斯業(同じ業種)経験年数 | 平均 15.3年/中央値 15.0年。経験保有者は81.1% |
平均と中央値の差
開業費用は平均975万円に対して中央値600万円。差は375万円あります。これは、少数の高額な開業が平均を押し上げていることを示します。したがって自分の計画の起点に置くべきは、平均ではなく中央値の600万円のほうです。
資金調達の構成も見ておく価値があります。合計1,219万円のうち借入が67.9%、自己資金が22.9%。開業費用のすべてを自己資金で用意している人は多数派ではなく、借入を含めた資金計画が前提になっています。
経験15.3年という数字
開業者の81.1%が同じ業種での経験を持ち、その年数は平均15.3年、中央値15.0年。開業時の平均年齢は43.9歳です。
理学療法士の平均年齢は36.2歳(厚生労働省 job tag、出典は令和7年賃金構造基本統計調査)とされています。この2つを並べると、いま30代半ばの人にとって、独立までにはおよそ7年前後の助走期間があるという計算になります。もちろん業種も条件も違いますが、「思い立ってすぐ」ではないことは全業種のデータでも共通しています。
開業を考える理学療法士への影響
この調査で見ておきたいのは金額そのものより、資金の構成比です。自己資金22.9%、借入67.9%。この比率は、開業に必要なのが貯蓄額ではなく、借入を組み立てられる計画であることを示しています。技術があるかどうかは、この段階ではまだ問われていません。
独立の失敗が起きる場所は、多くの場合、技術ではなく資金繰りと集客です。「腕がいい」は必要条件であって十分条件ではない、という順序を先に置いておくと、準備の中身が変わります。設備や内装より先に、月々いくら出ていき、何人来れば回るのかを書けるかどうかです。
まず一度やってみていただきたいのは、中央値600万円を起点に、自己資金2割・借入7割という構成で自分の数字を置いてみることです。そのうえで、月々の固定費と、損益が分かれる利用者数を出す。ここまで書ければ、独立するかどうかにかかわらず、いま勤めている職場の収支構造の見え方も変わってきます。
出典
- 日本政策金融公庫 総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日公表) jfc.go.jp(2026年8月31日確認)
- 厚生労働省 job tag「理学療法士(PT)」(平均年齢36.2歳。出典は令和7年賃金構造基本統計調査) shigoto.mhlw.go.jp(2026年8月31日確認)
※新規開業実態調査は全業種を対象としたものであり、リハビリテーション関連事業に限定した集計ではありません。融資・税務・事業計画に関する個別の判断は、金融機関および税理士等の専門家にご確認ください。
この記事を書いた人
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向井タカトシ
理学療法士 / パーソナルジム経営者理学療法士としての臨床経験を経てパーソナルジムを経営。理学療法士のキャリア形成を当事者の目線で発信している。