求人サイトや転職エージェントの記事で、理学療法士の有効求人倍率としてよく数字が挙がります。今回その出典を確認しようとしましたが、一次情報に到達できませんでした。分かったのは、そもそも公的統計に理学療法士単独の職業分類が存在しないという事実です。
有効求人倍率はどこで作られるか
有効求人倍率は、厚生労働省の「一般職業紹介状況」(職業安定業務統計)にもとづいて公表されます。これはハローワークに登録された求人と求職の比から算出されるもので、職業分類ごとに数字が出ます。
ここで問題になるのが職業分類です。職業安定業務統計には、理学療法士だけを取り出した分類がありません。「その他の保健医療の職業」といった括りに含まれる形になります。
つまり、仮にその括りの倍率が公表されていたとしても、それは理学療法士の倍率ではありません。
賃金統計でも同じことが起きている
同じ構造は賃金の統計にもあります。厚生労働省の賃金構造基本統計調査の職種分類は「理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,視能訓練士」であり、4職種の合算です。厚生労働省の職業情報提供サイト job tag でも、理学療法士のページと作業療法士のページの平均年収は、どちらも443.6万円・平均年齢36.2歳で同一です。
求人倍率も年収も、国の統計は理学療法士を単独では捉えていないということになります。
では求人サイトの数字は何か
求人サイトが掲げる倍率や平均年収は、多くの場合、自社に掲載されている求人と登録者から算出した独自の集計です。それ自体が誤りというわけではありません。ただし、母集団は「そのサイトを使っている求人と求職者」であり、全国のすべてではありません。
そして、集計方法・母集団・対象期間が明示されていないものが少なくありません。今回、複数の数字を確認しましたが、いずれも定義に到達できなかったため、本記事では具体的な数値を引用していません。
転職を考える理学療法士への影響
市場を測る数字を探した結果として申し上げると、理学療法士の求人市場を全国規模で正確に示す公的な指標は、現時点では存在しないと考えたほうが実態に近いと思います。「倍率が高いから売り手市場」という話は、その根拠まで遡れないことが多いためです。
ただしこれは、判断できないという意味ではありません。求人サイトの数字が「そのサイトの母集団の数字」だと分かっていれば、使い道はあります。複数のサイトを、同じ条件で並べて見るという使い方です。地域と施設形態を固定して、掲載件数と提示レンジがサイトごとにどう違うかを見る。全国平均より、こちらのほうが自分の選択に効きます。
エージェントとの初回面談の前にやっておきたいのは、譲れない条件と妥協できる条件を分けて優先順位を決めておくことです。市場全体の温度が分からない以上、判断の軸は自分の側に置くしかありません。特にリハビリ職は施設形態で働き方が大きく変わるため、急性期で経験を積みたいのか、生活期でじっくり関わりたいのかを先に言葉にしておくと、紹介の精度が上がります。
出典
- 厚生労働省 job tag「理学療法士(PT)」/「作業療法士(OT)」 shigoto.mhlw.go.jp(平均年収・平均年齢が同一であることを確認/2026年8月31日確認)
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(職種分類「理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,視能訓練士」) mhlw.go.jp(2026年8月31日確認)
- 理学療法士単独の有効求人倍率については、厚生労働省「一般職業紹介状況」の職業別データに該当する分類を確認できませんでした(2026年8月31日時点)
※本記事は特定の求人サイト・エージェントを推奨または非推奨するものではありません。
この記事を書いた人
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向井タカトシ
理学療法士 / パーソナルジム経営者理学療法士としての臨床経験を経てパーソナルジムを経営。理学療法士のキャリア形成を当事者の目線で発信している。