駆出率が保たれた心不全(HFpEF)に対する運動療法。12か月間の多施設ランダム化比較試験の結果が2025年1月にNature Medicineに掲載されました。主要評価項目では有意差が出ず、副次評価項目では改善が見られる、という結果です。
試験の設計
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| デザイン | ドイツ・オーストリア11施設の多施設共同RCT(Ex-DHF) |
| 対象 | 臨床的に安定したHFpEF患者322名(平均70歳、女性59.6%、NYHA II–III、LVEF≥50%) |
| 介入 | 週3回の有酸素+抵抗運動を12か月間 |
| 対照 | 通常ケア |
結果
主要アウトカム(修正Packerスコア)は有意差なし。 改善は運動群20.5%対対照群8.1%、悪化は42.9%対44.1%、Kendall’s tau-b = −0.073、P=0.17でした。
副次アウトカムでは、12か月時のピークVO₂に群間差1.3 mL/kg/min(95%CI 0.4–2.1)、NYHA分類改善のオッズ比7.77(95%CI 3.73–16.21)。E/e′には群間差がありませんでした。
限界として報告されていること
- 修正Packerスコアの定義が非対称であること
- 抵抗運動単独の効果が不明であること
- アドヒアランス不良(週2回以上を達成できたのは38.1%)
- 参加者の盲検化が不可能であること
心不全の運動療法への影響
この試験で最も重要なのは、主要評価項目で有意差が出なかったという事実そのものより、運動耐容能とNYHA分類は改善しているという副次結果をどう説明するかだと考えています。ここは臨床推論の力量が問われる場面です。
見落としてはいけないのが、週2回以上を達成できたのが38.1%というアドヒアランスの数字です。12か月間、週3回の運動を続けてもらう設計が、実際には半分も守られていません。介入の効果を論じる前に、続けられる設計だったかという問いが立ちます。
心不全の患者を担当している方は、自分の担当患者について、処方した運動が実際に何回実施されたかを把握しているかを確認してみてください。処方の内容ではなく実施率です。この試験の38.1%という数字は、現場の実感とそう遠くないはずで、そこを改善する工夫のほうが、種目の選択より結果に効く可能性があります。
出典
- Edelmann F, et al. Nature Medicine 31:306–314, 2025年1月, DOI: 10.1038/s41591-024-03342-7 nature.com(2026年8月31日確認)
※本記事は研究結果の紹介であり、個別の治療方針を示すものではありません。臨床判断は主治医および所属施設の方針に従ってください。
この記事を書いた人
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向井タカトシ
理学療法士 / パーソナルジム経営者理学療法士としての臨床経験を経てパーソナルジムを経営。理学療法士のキャリア形成を当事者の目線で発信している。