UPDATED 2025.07.09

「ママへ安心と確実を」──産前産後の身体と心の健康をサポートする理学療法士としてのキャリア軌跡

【監修】向井 崇敏(理学療法士/PT Career運営/B.E.Tパーソナルジム代表)

理学療法士としての専門性を活かしながら、自宅サロンから産婦人科勤務、そして現在は託児付きの産前産後専門整体サロンを運営する市原絢香さん。ご自身の出産・育児経験や切迫早産の体験をもとに、身体だけでなく心にも寄り添うケアを提供しています。

「ママの気持ちを否定しないこと」「安心できる場を提供すること」。そんな想いを大切にしながらキャリアを築いてきた彼女の歩みには、理学療法士という枠を超えて人を支える力が詰まっていました。

市原 絢香(いちはら あやか)
1989年8月6日生まれ。2011年に理学療法士免許を取得。整形外科クリニックでの臨床を経て、育休後に退職。助産院勤務、自宅サロン開業、産婦人科勤務を経験し、2025年に託児付き整体サロンを開業。妊産婦の身体と心に寄り添う理学療法士として、多くのママから支持を得ている。

Q. まずは学歴やこれまでの職歴について教えてください!

2011年に理学療法士免許を取得後、整形外科クリニックで臨床経験を積みました。その後、第一子の出産と育児に伴い育休を取得し、退職しました。2018年には助産院にて非常勤勤務をスタートし、そこで産後ママ向けのエクササイズクラスを開始しました。

2021年、第二子出産後に自宅で整体サロンを立ち上げ、2022年からは産婦人科クリニックに勤務。さらに経験を積んだのち、2025年にそのクリニックを退職し、現在の店舗型サロンへと活動の場を移しました。

Q.ありがとうございます!妊婦・産後向けサービスを始めたきっかけはご自身の妊娠・出産の経験からでしょうか?

整形外科クリニックに勤めていたときに、周りの先生方は得意分野があっけれど私は得意とするところがありませんでした。そんな時に産後のママが腰痛で来てくださったときに、これは女性ならではの道があるかもしれない!と思いウィメンズヘルスを学びはじめました。まずは骨盤底筋から。
しかし実践できる場もなく…。少ししてから自身の妊娠、ハイリスク妊婦になり、産後。
そこからなんとなくのウィメンズヘルス領域の勉強から、産前産後に特化して勉強をはじめました!

Q. そのようなご経験からなのですね。助産院でのママ向けのエクササイズ→産婦人科とご経験されたのちに、ご自身の整体サロンへとキャリアを移行させたきっかけや、その理由についてもう少し詳しくお聞かせいただけますか?

病院勤務では対応人数が多く時間に追われてしまうという現状がありました。

赤ちゃんを連れて外出することが大変なのに、大きいお腹でどうにか病院に着いたのに。仕事休んだのに。やっとの思いで出てこれたのに、リハビリ時間これだけ?診察時間これだけ?と思われている方もいるだろうな、と感じていました。

わたしは短時間で区切るということに申し訳ないなと思い、ゆっくりとお話しを聞きたいのに、聞くことまでできませんでした。

産婦人科にも理学療法士は必要だと思います。でも、身体だけでなくメンタル面もサポートしたいとなると短時間では難しい…

医療だから短時間でのリハビリ」というところに気持ちを割り切ることができませんでした。

毎回、少しの時間でごめんなさいと思ってしまいました。

次の方が待っているからと、お話を途中で遮ることもあり、申し訳ないなと思っていました。

だから私は、ひとりひとりゆっくり対応できるサロンをしたいと思いはじめました。

Q. 市原さんが現在勤務しているサロン店舗では、具体的にどのようなサービスを提供されていますか?また、その中で大切にしていることなどがあればお聞かせください。

妊婦さんと産後の女性に特化した整体サロンです。週に2−3日は託児スタッフもおり、お子様連れでも安心しておこし頂ける環境にしています。

身体の不調はもちろんですが、心の不調や育児の不安などがあるときにもご利用していただきたいと思っています。妊娠中や産後は身体も心も不安定になりやすく、身体と心は密接していると、婦人科勤務の時に思いました。

ゆっくりと時間をかけて、柔らかな空間で身体と心の健康をサポートしたいと思っています。 ママの気持ちを認めて、理解すること、否定しないということを大切にしています。

ママ自身を認めて産前産後期の女性の心と身体の健康をサポートする場を提供したい、 心身ともに健康で過ごせるように安心できる場と確実な施術を提供したいと思っています。

Q. 心身ともに安心して過ごすことができる空間は素敵ですね!具体的にどのような施術やサービスを提供しているのですか?

妊婦整体、産後整体&骨盤調整、リラクゼーションコース、一般整体があります。 画一的な施術ではなく、ひとりひとりに合った施術をします。 おうちでできるエクササイズのご紹介もしています。 また育児動作中に気をつけるといいことや、抱っこ姿勢、授乳姿勢の指導。骨盤ベルトの巻き方や使用の有無、服帯のことなどもお伝えしています。 時には複数人のママで集まってお話会をしたりして、ママの心がホッとするお時間も提供したいと思っています。

Q. 「ひとりひとりに合った施術」というのはどのような経験や学びによって形成されましたか?

やはり、産婦人科勤務でたくさんのママに触れられたことが大きかったです。 婦人科勤務の前から自宅で整体サロンをしていましたが、婦人科に勤務し経験値が上がり自信を持って施術できるようになりました。

また、産前産後分野の勉強会に参加し先輩方のお話しを聞かせて頂きました。 資格や画一的パッケージ的な施術ではない。この症状だからこの施術をする。のではなく、理学療法士ならではの“評価→考察→治療→評価”の考えを大切にしています。

Q. ご自身の整体サロンへキャリアを転換させたときに苦労したことや、乗り越えるために行った工夫などを教えてください。

まず直面したのは、経営に関する知識がまったくなかったということです。そこで、経営に関する勉強を一から始めました。何のためにこのサロンをやるのか、誰に届けたいのか、どうやって運営していくのか…。そうしたことを言語化する中で、自分自身の想いを整理し、しっかりと形にしていきました。

もちろん、すべてを一人で行ったわけではありません。経営に詳しい方や同じように事業をしている方々にもサポートして頂きながら進めました。

Q. その困難を乗り越えた中で、特に印象的だった出来事や、心に残っている言葉などはありましたか?

家族のサポート本当に大きかったです。私が新しいことにチャレンジしようとする時、家族はいつも応援してくれました。また、すでに事業をされている方とお話しする中で「仕事が楽しそう」と感じたことも、自分の背中を押してくれました。

「自分の人生、自分で決めていいんだ」と思えたのは、そういう方々の姿や言葉のおかげです。それが私にとって、大きな原動力になりました。

Q. 本当に素敵なお話ですね。では、今後のキャリアの中で挑戦してみたいことや、目指していることがあれば教えてください。

切迫早産、流産や早産ママのサポートをしていきたい気持ちがあります。私自身、切迫早産を経験しており、この時期のサポートは大切だと思っています。

また、切迫早産経験ママへの身体ケアや切迫早産予防講座はしたことがあります。しかし、これはご出産後で、一番つらい時期にはお会いできておりません。渦中のママのサポートがしたいです。

ですが現状、ハイリスクの方に対しては病院内でしかアプローチできないことが多く、民間でのサポートには限界があります。

また、病院内でサポートするためには、医師や助産師さんとの連携が必須ということ、理学療法士が産婦人科で働くということを理解してくれる医師が必要。

理学療法士が産婦人科に常駐することの価値をどう伝えるか、また病院にとってどのようなメリットがあるのかをきちんと提示していく必要があると考えています。そこが、今後の課題であり、挑戦でもあります。

Q. これまでの経験や想いが市原さんというキャリアを形成していることが伝わってきました。最後にそんな市原さんから、これから理学療法士としてキャリアを歩み始める学生や若手の方々に向けて、アドバイスをお願いします

とにかくベースは理学療法士としての基礎の知識があればどこでもやっていける、どうにでも展開できると思っています。

初めて就職した整形外科クリニックでは触診から評価考察治療まで、とても熱心にご指導していただきました。勉強会も多く、辛いなと思うこともありましたがそこで私の基礎ができました。

また、どんな症例さんにも全力で向き合うことが大切だと思っています。その気持ちは必ず届いていると思います。そして、その気持ちはいつかきっと自分の元へいい形で戻ってくると思います!

最後に、結婚したから、ママだから、子供がいるから、諦めないといけないことはないと思います!自分の想いが本気なら周りも理解し応援してくれると思います!

編集後記:
取材を通じて感じたのは、市原さんの「優しさ」と「芯の強さ」でした。理学療法士としての専門性に加え、ご自身の経験を余すところなく活かしながら、ママたちの心と身体に本気で寄り添う姿勢に深く感銘を受けました。
規模の拡大よりも、「目の前のひとりに誠実に向き合うこと」を何より大切にしている。その姿は、これからキャリアを築いていく若い理学療法士にとって、ひとつの理想の在り方ではないでしょうか。
市原さんがこれから挑戦しようとしている「切迫早産ママへのサポート」も含め、今後のご活躍を心から応援しています。

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監修者写真

【監修者】向井 崇敏/理学療法士

ASAP株式会社で訪問・病院・助成など医療介護現場で勤務したのちに独立。
2020年に「骨格から美ボディメイク」をコンセプトとしたB.E.Tパーソナルジムを設立。
現在はトレーナー教育&ジム開業コンサルティング事業「THE STORY」や、
理学療法士向けキャリア形成ナビ「PT CAREER」を運営。