【監修】向井 崇敏(理学療法士/PT Career運営/B.E.Tパーソナルジム代表)
理学療法士といえば「病院や施設で働くもの」というイメージが強いかもしれませんが、いまその常識が少しずつ変わり始めています。
「安定して長く働ける職業」として選ばれることが多かった理学療法士という仕事も、今では時代の流れとともに変化の波を受けるようになっています。高齢化が進む一方で診療報酬は厳しさを増し、現場では多忙や人手不足が常態化。若手の中には「このままでいいのか?」とキャリアに不安を抱える声も増えてきました。
最近では、理学療法士としての経験やスキルを活かしながら、自分らしいキャリアを築いていく新しい働き方に注目が集まりつつあります。転職や副業、独立、教育・研究、海外での挑戦、異業種へのチャレンジ、キャリア支援など──その選択肢は一つに限られているわけではありません。
本記事では、理学療法士キャリアに悩む方に向けて、今後の選択肢と具体的ステップを網羅的に解説します。
なぜ今、理学療法士のキャリアが多様化しているのか
理学療法士という国家資格は、かつては主に「病院や施設で働くもの」という認識が根付いていました。しかし現在、その活躍の場は急速に広がり、キャリアの選択肢も大きく変化しています。その背景には、社会全体の構造的な変化と、理学療法士自身の価値観や働き方の多様化が存在します。
1. 医療・介護制度の変化
診療報酬の改定や人員配置の見直し、病院の統廃合など、医療制度を取り巻く環境は少しずつ変化しています。介護保険制度においても、報酬の見直しやサービスの縮小といった動きが見られ、「制度の中だけでキャリアを築くことが難しくなってきた」と感じる人も少なくありません。こうした背景から、病院や施設の枠を超えて、自分らしい働き方を模索するPTも増えてきています。
2. 給与の伸び悩む組織構造
理学療法士は国家資格を持つ専門職でありながら、長年勤めても給与が思うように上がらないという構造的な課題を抱えています。役職に就かない限り昇給が限定的であり、30代・40代でも年収が300万〜400万円台にとどまるケースも少なくありません。生活や将来設計を考えるうえで、他のキャリアを模索する動機になることが増えています。
3. フリーランス・副業・ウェルネスなど新市場の広がり
制度に頼らない働き方として、自費リハビリやパーソナルジム、オンラインでの運動指導、SNSやYouTubeなどによる発信業が注目されています。さらに、「介護予防」「ウェルネス」「健康寿命延伸」といった領域では、理学療法士の専門性が高く評価され、企業や自治体との協業機会も生まれています。
4. 若手PTのキャリア観の変化
「一生同じ職場で働く」という価値観が薄れ、「自分らしい働き方」や「柔軟なライフスタイル」を求める若手が増えています。働く意味や将来像を問い直す中で、転職、副業、起業、学び直しなどを「前向きな選択」と捉える人が増加しているのです。
5. テクノロジーの進化と情報アクセスの容易さ
ChatGPTをはじめとしたAIや、SNSによる情報拡散、学習環境のオンライン化により、キャリア構築の手段は加速度的に拡大しました。誰もが簡単に新しい知識を得て、発信し、挑戦できる時代になった今、理学療法士のキャリアも自分で「つくる」ことが可能になっているのです。
こうした社会的背景を踏まえ、理学療法士が多様なキャリアを選べる土壌が整いつつあります。
理学療法士のキャリア選択肢|7つのルート
この章では、理学療法士におすすめの7つのキャリア選択肢について紹介いたします。
理学療法士キャリア形成の具体的な4ステップ(悩む・選ぶ・極める・届ける)についてはこちらで解説しています。
① 臨床キャリア|現場と組織で専門性を深める
医療・介護・福祉など、臨床の第一線で専門性を深めていくキャリアです。急性期から回復期、維持期、訪問リハ、地域包括ケアなど、現場ごとに求められる知識・技術・関わり方が異なり、多様なスキルを磨くことができます。
また、経験を積んでいく中でリーダー職や主任、管理職など、組織内での役割や責任が広がるのも特徴です。「患者さんと向き合い続けたい」「臨床の現場を極めたい」という人にとって、現場にとどまりながらも着実に成長できる選択肢です。
施設の中で教育係やプリセプター、チーム運営、評価制度設計などに関わることで、マネジメントや組織運営のスキルも身につきます。将来的には教育者や管理者へのステップアップにもつながる、王道ではあるが奥深いキャリアルートです。
② 副業|現職を活かして収入を分散
🔗 関連記事:理学療法士におすすめの副業10選|SNS・訪問・講師などリアルな実例も紹介
副業は、現職にとどまりながらも収入やスキルの幅を広げられる手段です。SNSでの発信、ライター業、オンライン講師、訪問リハビリ、トレーナー活動など、理学療法士としての専門性を活かしながら挑戦できる分野は意外と多く存在します。
また、好きなことや得意なことを副業として育てることで、将来的な独立や転職の選択肢が広がるのも魅力。自分の時間や得意領域に合わせて柔軟に活動できるのが、副業の強みです。SNS、ライター、訪問リハ、副業講師など柔軟な選択肢が豊富です。
③ 独立|自分の価値を直接届ける
理学療法士としての知識・技術・経験を土台に、独自の価値をサービスとして提供する働き方です。自費リハビリ施設の開業、パーソナルトレーニングジムの運営、姿勢改善やスポーツコンディショニングなど、提供方法は多様です。
独立にはリスクも伴いますが、自分の理念ややりたいことをそのまま形にできる魅力があります。特に、「もっと利用者に寄り添いたい」「制限のない環境で実力を発揮したい」と感じるPTにとっては、やりがいと責任が比例するキャリアです。自費リハビリ、パーソナルジム、コンディショニングなど自由度の高い働き方が可能です。
④ 教育・研究|知を深め、後進を育てる
臨床経験を活かして、次世代の理学療法士育成や、学術的な研究に携わるキャリアです。専門学校や大学での教員職、大学院進学を経た研究者としての道、学会・論文への寄稿など、知的好奇心を満たす仕事が多いのが特徴です。
「教育することで自分も成長できる」「現場ではできなかった課題を研究という形で解明したい」と考える人には最適なフィールドです。安定性とやりがいを両立したキャリアとして人気も高まりつつあります。専門学校・大学での指導や研究職として、臨床とは異なる貢献が可能です。
⑤ 海外展開|世界で通用するPTを目指す
日本国内だけでなく、海外で理学療法士として活躍したいという人も増えています。国によっては資格の互換性がなく、現地で国家試験の受験や大学の再入学が必要な場合もありますが、その分グローバルな視点と経験を得られる貴重なチャンスです。
アメリカ・オーストラリア・カナダ・アジア各国など、進出先も多様で、語学力やチャレンジ精神を活かせる人には大きな可能性があります。国際協力やNGO活動など、社会貢献とキャリア形成を両立できる道もあります。語学や国家資格取得など準備は必要ですが、視野が広がるキャリアです。
⑥ 業界チェンジ|理学療法士の枠を超える
🔗 関連記事:【2025年版】理学療法士から他業界への転職ガイド|おすすめ業界10選を徹底解説
リハビリ職の知識や経験を活かして、異業種に飛び込む「キャリアチェンジ」も注目されています。ヘルスケア商品の開発、企業の人材育成や健康経営サポート、医療系ITベンチャーなど、PTの視点を武器にできるフィールドは広がっています。
「現場は好きだけど組織に合わない」「もっと違う形で健康に関わりたい」という人にとっては、新しい自己実現のチャンスです。医療職というバックボーンがあるからこそ、業界を越えても信頼されやすいのも強みです。
営業職・マーケター・商品開発など、PTスキルを応用して異業種で活躍するケースも増加中です。たとえ医療とは関係のない業界に進んだとしても、理学療法士として培った「人と向き合う力」「課題を分析し解決する力」「チームで協働する力」は、職種や業界を問わず価値あるスキルとして重宝されます。
「PTとしての経験なんて異業種では通用しない」と思い込まず、視野を広げてみることが新たな可能性を拓く一歩になります。
⑦ 異業種での起業|医療職の枠を超えて自分のビジネスを創る
理学療法士としての専門性をあえて使わず、まったく異なる分野で起業する──そんなキャリアの選択肢を選ぶ理学療法士が、近年少しずつ増えています。
たとえば、カフェや飲食業、アパレル、ECサイトの運営、ITやWeb制作、教育サービス、不動産業、地方創生ビジネス、クリエイター活動など、その業種は実に多様です。重要なのは、「理学療法士としての知識を活かすかどうか」ではなく、「自分の理想のライフスタイルや価値観に合ったキャリアを築けるかどうか」です。
もちろん、資格や専門性を手放すことに迷いや不安を感じる人も多いでしょう。しかし、理学療法士として働く中で身につけた「人と向き合う力」「課題解決力」「責任感」は、業種が変わっても確実に武器になります。
今の時代、副業やスモールビジネスとして小さく始め、徐々に育てていくことも可能です。医療業界という枠にとらわれず、自分自身の興味や強みを軸に新しいキャリアを築いていく。その第一歩が、異業種での起業という選択肢なのです。
診断で「あなたのタイプ」を見つけよう
ここまで読んで「自分にはどれが合うんだろう?」と感じた方は、理学療法士専用の無料キャリア診断で自分に合った働き方のヒント探してみましょう!
理学療法士のキャリアには多くの選択肢がある一方で、実際には「何から始めればいいかわからない」「自分に向いている道が見えない」と悩む方も少なくありません。そんな時、主観ではなく“客観的な視点”から自分を見つめ直すことで、新たな気づきが得られることもあります。
PT Careerの理学療法士専用キャリア診断は、質問による「意識的」な適正に加えて、名前・生年月日から読み解いた「潜在的」な適正まで、AIを活用した最新技術で分析する診断コンテンツです。
例えば、「安定志向で組織内で力を発揮するタイプ」や「柔軟な働き方で多様な収入を得たいタイプ」など、診断結果に基づいて今の自分に合ったキャリアの方向性を知ることができます。
診断結果には、あなたの強み・注意点・向いている選択肢に加えて、タイプ別におすすめの記事も用意していますので、行動の第一歩として活用いただけます。
理学療法士のキャリアを築くための3つのステップ
① 情報収集を習慣にする
キャリアの第一歩は「知ること」から始まります。理学療法士として働いていると、つい自分の職場の常識が「業界全体の常識」のように感じてしまうことがあります。しかし実際には、病院だけでなく、介護、スポーツ、企業、海外、フリーランスなど多様な働き方が広がっており、情報収集によってその可能性を知ることができます。
PT Careerでは最新の理学療法士キャリアインタビュー記事の公開を公式LINEでお知らせしています。常に最新の情報をゲットしたいからは友達追加してお待ちいただけると光栄です。
② ロールモデルの話を聞く
「自分が進みたい道に、実際に進んだ人はどんな風に考え、動いたのか?」──この問いに答えてくれるのがロールモデルの存在です。
自分と似た経歴や悩みを持っていた人のインタビューや体験談は、キャリアを考える上で非常に実用的な教材になります。
PT Careerでは、臨床を極めた人、起業した人、海外に挑戦した人、キャリア支援に携わる人など、多様な道を歩んでいる先輩の声を紹介しています。「かつての自分も迷っていた」という言葉に救われることも少なくありません。
③ キャリア形成の具体的なステップを知る
キャリア形成には、①悩む→②選ぶ→③極める→④届けるの4ステップが必要不可欠です。独立・開業する方だけではなく、臨床や施設でのキャリアを築き上げていく方や、他職種と連携していく方にとっても非常に重要なステップです。
こちらの記事では理学療法士キャリア形成の4つのステップについて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ|「自分らしい働き方」は自分で選ぶ時代
理学療法士のキャリアは、いま大きな転換期を迎えています。病院や施設に勤めるだけではなく、自費領域、教育・研究、企業、海外、そして他の職種へと、選べる道は確実に広がっています。
この変化の中で大切なのは、目の前の環境に流されるのではなく、「自分で選ぶ」という意識を持つこと。情報を集め、ロールモデルの声を聞き、自分の志向や可能性に向き合うことで、将来の選択肢は確実に増えていきます。
本記事を通じて、あなたが知らなかった可能性に出会い、踏み出す勇気が少しでも湧いてきたのなら嬉しく思います。
迷ったときは、診断を試したり、誰かの経験に触れてみたりするだけでも十分な第一歩です。
自分の価値観を大切にしながら、「自分らしい働き方」を見つけていきましょう。理学療法士のキャリアは、これからますます多様になります。 大切なのは、「今の環境で続けるかどうか」ではなく、 「どんな働き方をしたいか」を自分で決めること。
迷ったら、診断や先輩の声を頼りにしてもOKです。 自分の可能性を信じて、理想のキャリアを描いていきましょう。
理学療法士専用のLINEキャリア診断コンテンツをリリース!
質問による意識的な適性と、名前と生年月日から読み解く潜在的な適正を掛け合わせた、理学療法士専用のLINEキャリア診断コンテンツをリリースしました。1分で無料で簡単にできる診断なので、キャリア形成に悩んでいる方はもちろん、試しに使ってみたい方も是非利用頂けると大変光栄です。

【監修者】向井崇敏/理学療法士
ASAP株式会社代表取締役。病院・訪問など医療介護現場にて勤務したのちに独立。2020年に「骨格から美ボディづくり」をコンセプトとしたB.E.Tパーソナルジムを設立。現在はトレーナー教育&ジム開業コンサルティング事業「THE STORY」や、理学療法士向けキャリア形成ナビ「PT CAREER」を運営。